相談スキルを育てる

研修会でお話した後、保護者の方から「本人を相談に行かせたい」と尋ねられることが増えて来ました。
ですが、保護者の希望に反して、本人に相談ニーズがないことも多く、かといって思春期以降、保護者の言うことに耳を貸さなくなったので、家庭内で対応に苦慮している様子が伺えます。

成長とともに、家族以外に相談できる他者の存在は自立に向けて必須だと考えています。
保護者向けの研修会では、最近意識して親離れ・子離れの話をしたり、本人相談でうまくいった事例を紹介するので、当ルームを利用させたい、という親御さんの気持ちはとてもわかります。
だけど経験上、本人にニーズがないと、こちらが細心の配慮をしても後が続かないです。無理に進めて、一度来ても「行っても意味がなかった」となり難しいなと思います。

他者に上手く相談できるようになるには、必然性のあるタイミングと、うまくいったという成功体験が必要なのだと痛感します。

やはり相談スキルは、日常生活の中で、まずは身近な相手に、できれば幼い頃から少しずつ育てていくものだなあ…と思いまして、ちょっとこちらに記事として書いておこうと思いました。

家庭内で相談スキルを育てるためのポイントは、やはり「視覚支援」と「自力でうまくいった体験」です。以下にまとめますね。


1.保護者(特にお母さん)が代弁、代行するのをやめる
(株)おめめどうさんが「直接対峙」と表現されているように、保護者は他者との仲介から少しずつ手を引いていきます。

その相手は、最初はお父さんかもしれません。
「○○買ってほしい」「日曜に△△行きたい」「父親参観があるよ」など、伝えることは山ほどあります。

そこから広がって、祖父母、親戚、近所の人、お友達、学校の先生…、そういう身近な人たちに、自分で伝える機会を増やすのです。


2.視覚支援を活用する
ただ伝える際には、口頭だと緊張しますし、そもそも何を言えばいいか、自分の気持ちや考えがまとまっていないことも多いです。
セリフなど表現も思いつかないですし、タイミングにも迷います。

だから、言いたいことは事前にメモでもメールやLINEでもいいので、文字に書いてみます。
最初は本人の言ったことを保護者が書き取ったり、台詞の選択肢を提示して、本人が〇をつけることから始まるかもしれません。
(これらには(株)おめめどうのコミュメモ:「おはなしメモ」「えらぶメモ」を使われるといいと思います。)

そして、自分でメモを渡す(メールやLINEを送る)ことを、繰り返してほしいのです。
本人
がそうしたいならその場で読み上げるでもいいです(つまりカンペです)。

また最初は特に伝えて望みがちゃんと叶った体験が大事なので、事前に相手への根回しが必要なことがあるかもしれません。
(だからなるべく周囲が協力してくれやすい低年齢の時期がよいと思います。)


3.通院の機会を活用して報告スキルを育てる
カウンセリングに行ったことはなくても、低年齢でも成人でも、病院やクリニックに、服薬のため通院している本人さんは多いかなと思います。
そこでも「何も相談せずに終わります」と話される保護者が多いです。

実はそれも相談スキルを育てる大きなチャンスです。

時間が短くて服薬調整だけでも、体調の変化、学校や職場でいつも通りに過ごせたか(結構休んだのか)、等々を医師に報告するのではと思います。
それも保護者が代わりに言うのではなく、事前に本人に書いてもらうのです。

私は公的機関にいた頃から、継続の個別面接では、必ず「近況」を聞いています。
前回から1~2か月の間に、人にもよりますが、以下の項目のについて、トピック・変化のあるなしをお尋ねしています。
 〇体調~病気の有無、生活リズム(睡眠・食事)、気分の変動
 
〇通院・相談状況~頻度、相談内容、服薬状況
 
〇学校(または就労)生活について~遅刻欠席、行事など
 
〇家庭生活~家事、家族のこと
 
〇外出、趣味、その他

これは相談内容に対して、生活全体の状況から、困りごとの背景・理由を探り、その上で助言するためにお尋ねしています。
(例えば、「朝起きられない」という相談でも、生活に変化がなく季節的な影響か、服薬が変わったのか、学校で居残りが続いて疲れているのか、では、対応が異なりますので。)

物事の細部に焦点が当たり、全体を捉えることが難しい特性から、何か困りごとがあると、そこだけにフォーカスが当たりがちです。
また他者視点が持ちにくいため、相手に何を伝えていいかがよくわからないことも多いです。
だから支援側が意識して尋ねないと、本人からこういった内容を語られることが少ないのです。

すから、通院時に、例え相談したいことがなくても、上記のような報告を医師にできるようになることも、一つの相談スキル(報告スキル)なのだと思います。

よく「最近どうでした?」という医師からの質問に対して、本人が「答えにくい」「答えられない」と話されることが多いです。
そういう時も、「近況」つまり「生活の主な活動場所でのトピックや変化のあるなし」を話すことができればいいのだと思います。


4.「口頭」か「書いて伝える」かは本人が選ぶ
その他にも、学校や塾、習い事、本人が訊きたいこと、確認したいこと、報告したいことなどは、無数に伝える、尋ねる機会があるはずです。
療育やデイサービスに通っている場合もありますよね。

発達障がいがこれだけ広まっていても、残念ながら実際は多くの場所で「口頭で言う」ことを求められます。
どんなに慣れた場所でも、いざとなると口頭は緊張しますし、うまく言えず結局親御さんが代弁して、失敗感に終わるリスクも多いです。

私は、「口頭」か「メモ」「メール」かは、複数の手段を経験した後に、本人自身が選択するのが望ましいと考えています。


5.思春期・成人期のスタートでも遅くない
以上のように、事前にメモやスマホ(メモ機能)などに、伝えたいこと・伝えておいた方がいいことを書き留めておく習慣、相手に伝えてよかったというたくさんの経験を、幼少期から積み重ねていくことが、相談スキルを育てることにつながるように思います。

もちろんこれらを思春期以降に始めることは可能ですが、書きなさいと言うだけでは大体書かないです。
最初は聞き出しが必要かもです。親子関係が良好なら、話しながら一緒に書き出してみてください。

なかなか話さなくなった親子関係なら、通院などの数日前に、LINEなどで報告が必要な項目をいくつか挙げておいて、「来週の通院に向けて、これらの項目について、考えていてね」と送っておくのもよいかもしれません。

文章を書くのが苦手な場合は、選択肢に○をつけるだけのアンケート形式で尋ねることもされるとよいと思います。


相談スキルがある人は生きやすいなと日々感じています。
元々苦手なことなので焦らず少しずつ進めるのがコツです。
よかったらどうぞ参考にされてくださいね。



※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

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