何のために診断するのか 後編

発達障がいを疑い、医療機関の受診を迷っている本人や家族から、「診断を受けた方がよいのでしょうか」と問いかけられることがあります。

前編から続きます。

      

4)対応を先に始める

発達障がいの支援では、診断がついてから治療開始、という一般的な病気とは違う流れで考えた方がよいと思います。
実際に本人や保護者にそう伝えることもあります。

ちょっと筋からそれますが、現実的な話をします。
希望者数が多いのにも関わらず、医療機関が少ないこともあり、初診予約に数か月、2~3回の通院でさらに1~2か月と、確定診断に至るのには時間がかかります。
幼児期や低年齢だと、通院を続けて経過を見てから判断するという場合もあります。

制度やサービス利用も、手続きに時間がかかります。
福岡市の場合、児童発達支援センターや通級指導教室など、定員があるものは申し込み期限が限られて、逃すと一年待たないと入れません。

就活の時期まで未診断で、いざ手帳を取得して障がい者雇用で働きたい場合、精神障害者保健福祉手帳(知的障がいのない発達障がい者に該当する手帳)は、診断から6か月経っての申請ですので、足かけ一年かかることになります。

診断名がなくても申し込めるものありますが、受診に迷っている時間が長いと、何かを選ぶ時機を逃してしまうことがあるのです。
(不利にならないように先を見越して、医療機関の受診と同時平行で、サービス利用の情報提供をすることは、支援者の重要な役割ですよね。)


話を戻しますね。対応を先に始めた方がよいのは、予約や手続きに時間がかかることもありますが、発達障がいの概念がスペクトラムであることが一番の理由です。
診断基準は満たさなくても、特性はみられることが大いにあり得るのです。
いわゆるグレーゾーンと呼ばれる範囲にいる方々のことです。

境目があいまいですので、仮に受診しても診断がつかないことは起こり得ます。
だからといって発達障がいの対応をしなくていいわけではありません。
実際、現場にいるとよくわかるのですが、不登校や引きこもり、ニートや犯罪などの不適応状態にいる発達障がいの多くは、早期に対応がなされないまま育ってきたグレーゾーンにいる人たちです。

発達障がいの対応や工夫は、特別なものではありません。
一般の子育てや人材育成に通ずる事柄も多く、仮にそうでなかった場合にも決して無駄ではない、有効な方法なのです。

診断がなくとも発達障がいの可能性があれば対応をしてみる、という発想によって助けられる人が数多くいるのです。


5)診断を受ける目的
では、改めて診断を受ける意味や目的とは何でしょうか。
私は以下のように3つに整理して説明しています。

本人や家族の納得や覚悟、対応のヒントを得る
当事者が困りごとの背景に障がいがあると認め、今後の人生を覚悟を持って生きるために受診をします。
また診断名があると、相談先や対応の糸口となる情報が入手しやすくなります。

周りの理解~身近なナチュラルサポート
家族や親戚、友人や近所、学校の先生など、日常でのごく自然な理解や関わりを得るためです。診断名があると説明や共有がしやすくなります。

③周りの理解~公的なサービス利用
手帳や手当、医療費の減額や年金、福祉サービス事業所や障害者雇用など、公的な制度利用のためです。

こう考えると、医師の診断が本当に必要なのは、③だけになります。
申請にあたり、客観的診断書や意見書の提出が求められるからです。

①と②は、各々がそうだと思って、理解もサポートもしているのでしたら、わざわざ受診する必要はないと言えます。

ですけど、本人や家族は①の目的で受診したいと考えます。
診断を受ける段階では、③のサービス利用は全く希望がないか、必要に応じて考えるという場合が往々にしてあります。
まずは、客観的に見てどうなのかを知りたい、これまでの生きにくさへの明確な答えがほしいというニーズです。

診断名告知が区切り、ひとまずのゴールとなるのですね。
合わせた対応やサービス利用に目を向けるのは、第2部スタートという感じなのかもしれません。

本人は、特性から白黒はっきりさせたい傾向があるので、①→②→③と一つずつ段階的に進むことを好む方もいます。

反対に医師の側は、③のサービス利用の該当を想定して診断をする場合があります。
医療機関によっては、特性があっても社会適応をしていて、サービス利用までは必要ないのなら、診断をつけない、受診そのものを断るということもあります。

よほど典型的なタイプは除きますけど、ここにズレが生じることがあると知っておくと、支援者が相談応じるときに役に立ちます


6)診断するメリットとデメリット
先程の①②③は、診断を受けるメリットともいえます。
反対にデメリットとして説明するのは、誤解や偏見です。

発達障がいは個々で違うのに、できないと決めつけられる、レッテルが貼られる、差別を受けやすいなど、残念ながら現代社会でもまだまだ避けられません。
それと、加入できない保険があるとも聞きます。(詳細は分からないので、これは各自でお調べください。申込み関係で把握してないことは、他にもあるかもしれません。)

また②に、受診の必要がないと言っても、保育園や幼稚園、学校での理解を得るには、診断名があるのとないのとでは随分差が出てくるのが現実です。

将来的なことを考えても、早めに受診しておくメリットはあります。

学校時代まではユーザー(お客)側ですから、一般枠でもナチュラルサポートで何とかうまくやっていけることもあります。
ですが、就労して労働者やサービス提供者側になると、仕事上のスキルだけでなく、一般枠での上司や同僚のサポートには限界が出てきます。
厳しいようですが、突出した有能さがない限り、給与は同じなのに一方的なサポートばかりとなると、周りが物理的にも感情的にも負担感が生じてトラブルになりやすいのです。(それで辞めた方はたくさんいます。)

社会人になって公的サービス利用の可能性が出てきやすいことがあるため、診断や手帳の準備をして、障がい者雇用も選択できるようにしておく方法もあるのです。


7)診断名を生かす
早めに受診した方がよい理由は他にもあります。
◎初診の予約のとりにくさ(前述)
◎成人年齢の初診を受ける専門的な医療機関の少なさ(これは医師の研修等の対策も出てきてるので、今後どうなるかわかりませんが。)
◎障害年金を受給する要件として20歳前に初診があること(20歳過ぎると年金の支払いなどの条件が加わります。これもあまり詳しくないので、公的な相談機関へのお尋ね下さい。)

それと、より重要なのは、年齢が上がって親御さんは診断に連れていきたくなっても、今度は、本人自身が受診に抵抗を示すことがあるのです。
ここに困っている保護者の相談は本当に多いですよ。

本人が拒否する理由は、困り感がない、障がいと思いたがらない他、以下のことも考えられます。
◎学校でのからかいやいじめを見聞きし、障がいへの偏見や差別感情を持つ
◎思春期の、親への反発や、友だちと同じでありたい、知られたくないという心性
◎新しいこと、変化修正の苦手さから、今までと方向性が変わることへの混乱
◎想像力の弱さから、将来の就労や自立する上での困難さが予測できない

という諸々の背景から、「早め」=遅くとも思春期前の受診をおすすめしています。

とは言っても、多少の不便さはありますが、成人年齢でも道はちゃんとあります。
なので、よほど抵抗を示す場合には、無理強いをすることはしない方がよいです。
以上のようなメリットとデメリットを説明した上で、納得して選ぶことが一番です。

診断がなくとも対応は先に始められる。
では、何のために診断を受けるのか。
なぜ診断を受けたいと思うのか。

これらを本人や家族が理解すること、そして支援者は迷いや躊躇を尊重しつつ、診断とサービス利用について、見通しを持って情報提供することが、診断名を生かすことへの一助となるのだと思います。
(終)

 

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

 

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