何のために診断するのか 前編

「診断を受けた方がよいのでしょうか」という質問を投げかけられることがよくあります。

多くは発達障がいを疑い始めて、医療機関の受診を迷っている最中での問いかけです。

発達障がいの診断にまつわる相談は、障がい受容と関連することもあり、すんなり進まないところがあります。

周囲からの薦めでも、なるべくなら本人や家族が納得して主体的に決められるとよいなと思います。
そのためには、発達障がいの診断に関して、支援者からの丁寧な説明が求められていると思います。

1)治らない障がい
受診して、はっきり答えが出るのは怖いことです。躊躇するのは当然です。

発達障がいの診断とはちょっと特殊なのかもしれないです。
一般的な病気のように、薬や手術など医学的な治療が始まるわけではありません。

療育や福祉サービスを紹介されても、希望しなければ開始しません。
例え利用したとして、症状が軽減することはあっても、定型発達のようになることはないです。

つまり発達障がいの診断とは、治らないことを突きつけられ、障がい抱えながらどう生きていくかを否応なしに迫られることなのです。

治る方法がない、行っても変わらないのなら、なぜわざわざ診断を受ける必要があるのかと疑問を持つこともあると思います。


2)発達障がいの診断基準
診断方法のわかりにくさも、受診を足踏みする背景にあるかなと思います。
発達障がいは脳機能の障がいですが、現在の医学では、脳を直接調べる方法はありません。(研究は盛んに行われてます。)

もし血液検査や脳波、MRI検査などを受けたとしてもあくまでも除外診断のためです。
知能検査も、知的障がいの合併や認知特徴の把握のために実施するもので、直接発達障がいを調べるものではありません。

発達障がいかどうかは、乳幼児期からの育ちと現在において、特有の行動特徴がどのくらいあるかを聴取、観察することで診断されます。

書籍やネットにも、こんな行動があると発達障がいかも?という書き方がしてあります。
行動だけを見ると、例えば落ち着きがない、忘れ物が多い、コミュニケーションが苦手など、誰でもちょっとはありそうな事柄です。
スペクトラム(連続体)と表現されるように定型発達とどこで線引きするかは、非常に難しいです。

また環境や年齢(経験)によって改善もみられるため、何とかなりそうにも思えます(別の課題は出てきます)。
だから、特に低年齢のうちは、診断を受けるまでもないかもと思い、医療機関から足が遠のきやすくなります。


3)行った方がいいのかという問い
私自身、疑いの段階での相談を受けることも多く、発達障がいの特性の説明に「あてはまります!」と納得されても、診断そのものは「そこまでは…」と二の足を踏まれることはよくあります。

なぜ行かないのだろうと不思議に思うかもしれませんね。
経験上、障がいの程度の見立ては、こちらより家族側の方がやや軽症に見ているなあと感じます。
家族の抵抗感からなのか、新奇場面は苦手だけど日常の繰り返しが得意な障がい特性の影響で家庭内で力を発揮できてるからなのか、ちょっとよくわかりません。
(逆に、親御さんの話では大変そうでも、本人に会うとそこまで感じないこともあります。いずれにしても、凹凸があること、環境に影響されやすいことの表れなのかな、と解釈しています。)

「先生はどう思いますか?」とのお尋ねも多いです。
診断に行くレベル(状態)かどうかを知りたいのもありますが、医療機関だと決定的になるから、その手前の少しゆるやかなお墨付きがほしいという場合もあります。

後者の場合は、本人が受診を嫌がる、他の家族が反対している、経済的時間的余裕がない、保険証が使えない家庭背景がある、など事情は様々ですが、受診への抵抗感は少なからずあるのだと思います。

専門機関にいると、医師でなくとも発言の影響力は大きいので、かなり慎重に答えるようにしています。答え方はケースバイケースですね。
基本は、ちゃんと知りたいなら医療機関の受診を薦めます。そのハードルを越えることが受容のプロセスとして大事だからです。

ただ本人の状況によって、今すぐ発達障がいと思って対応した方がメリットがある場合には、受診を強く後押しすることもありますし、サービス利用等の社会的効力はないと前置きした上で「その可能性があると思います」と伝えることもあります。

雑談で、発達障がいかも~と話すのとは訳が違いますので、おそらく賛否両論あるかと思います。
なぜあえてそんな役割を担うのかと言えば、私自身は極端な話、受診するかどうかの問いには、どちらでもいいというか、そんなに急がなくてもいいのではと思ってるところもあります。
(ただし、将来的、長期的に考えたときに、早めに受診しておいた方がよい場合があります。これは後述しますね。)

なぜなら、診断がつくつかないよりも、診断をどう活用したいのかの方が大事だからです。
もっと言えば、診断を受けることよりも、発達障がいかも?と疑ったその日から、対応を始めることを最優先にしているからです。 

 

→後編に続く

 

 

※ここに書いたことは、これまでの実践経験から得た知恵みたいなもので、研究による検証などは行っておりませんし、今後変わりうることもありますので、そのつもりでお読みください。

 

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